ことのはも ことの葉も 言の葉も 01-052
愛のささやき、愛の歌。ここはその記憶である。次の「けはひ容貌」が今まさに幻となって立ち上がるのとは別である。過去と現在が混在しているところに帝の精神状況が表現されている。すごい一文だ。
かうやうの折は 御遊びなどせさせたまひしに 心ことなる物の音を掻き鳴らし はかなく聞こえ出づる言の葉も 人よりはことなりしけはひ容貌の面影につと添ひて思さるるにも 闇の現にはなほ劣りけり
このような折には管弦の遊びなどを催しになられましたもので、あの方は人より豊かな感情を込めて琴を爪弾し、はかなく消えてしまったその時歌った愛の言葉にしても、人とは異なる色香漂うお顔立ちが幻のように月の面と重なるのを御覧になるにつけても、歌にある闇中の逢瀬よりも更に実在感に乏しいものでした。