なくなりて 亡くなりて なくなる 亡くなる 01-006
父大納言に対する述語はここで終わることを考えると敬語がないことになる。よってこの後に、「今はおられない」意味の述語が省略され、そこに本来敬語があったであろう。連用中止で、省略された述語にかかり、「母北の方」以下の句にはかからない。
父の大納言は亡くなりて 母北の方なむいにしへの人のよしあるにて 親うち具しさしあたりて世のおぼえはなやかなる御方がたにもいたう劣らず なにごとの儀式をももてなしたまひけれど とりたててはかばかしき後見しなければ 事ある時はなほ拠り所なく心細げなり
父の大納言はお亡くなりの中、母は家柄の古い教養豊かなお方で、二親そろった当節評判で勢い盛な女御方にもさほど見劣りすることなく、宮中の諸行事をもまかなっておいででしたが、娘には取り立てて力のある後ろ盾はなかったので、人生の大事が訪れた時にはやはり頼みとするあてはなく心細い様子でした。