さるかたのよすがにおもひてもありぬべきに さる方のよすがに思ひてもありぬべきに さるかたのよすがにおもいてもありぬべきに さる方のよすがに思いてもありぬべきに ありぬべし 02-075
「さる方」はその方向、即ち、長く関係をつづける方向としての。「よすが」は頼りとする点、より所。それは男が出会った当初の気持ちを今も大切にしている点をより所にするということ。今は熱が冷めてしまっているのに、出会った当初の気持ちを大切にできるのは誠実な性格であるから、というのが左馬頭に論理展開。「思ひてもありぬ」の「思ふ」主体は女である。「も」があるので、実際には難しかろうがというニュアンスが隠れている。これを無視すると主体を男と読み誤る解釈が生まれる。浮気性があろうと、男が今も出会った当初の愛情を大切に思っているなら、それをより所として生涯の伴侶と考えてもみるべきなのに、となる。
また なのめに移ろふ方あらむ人を恨みて 気色ばみ背かむ はたをこがましかりなむ 心は移ろふ方ありとも 見そめし心ざしいとほしく思はば さる方のよすがに思ひてもありぬべきに さやうならむたぢろきに 絶えぬべきわざなり
(左馬頭)それにまた、ちょっと浮気心を持つ人を恨みかっとなって心が離れるのも、これまた愚かしいことで、たとえ今心がふらふらしていても見初めあった当初の愛情から相手にすまぬと思う気持ちが男にあれば、頼りがいのある夫だと女は思ってもよいはずなのに、そんな風に気持ちのたじろぎから縁は絶えてしまうものなのです。