やむごとなくせちにかくしたまふべきなど やむごとなくせちに隠したまふべきなど やむごとなし やんごとなし 02-013
これは六条の御息所の手紙や、特に藤壺の宮の手紙を示唆する。もちろんそれらの女性と光源氏が道ならぬ恋にあることを、頭中将は何も知らない。しかし、主人公はもちろんのこと聞き手もその関係性を知っているために、頭中将の言葉に別の意味が加わってくる。頭中将は無自覚であるだけに、平気で光源氏の心の中に土足で踏み込んでくるところにドラマ性が生じる。これをドラマチック アイロニーと呼ぶ。頭中将は、狂言回しの役を宛てがわれる一方で、光源氏の心の暗部を照らす役割をし、また「中の品」の女性に対する道を開く[補02-001]参照。
やむごとなくせちに隠したまふべきなどは かやうにおほぞうなる御厨子などにうち置き散らしたまふべくもあらず 深くとり置きたまふべかめれば 二の町の心安きなるべし
相手が尊くてどうしてもお隠しになるべき手紙などは、このように大雑把なものである厨子などに、置き放し人目にさらしておおきになるはずもなく、奥の方に取ってお置きでしょうから、二流どこの見られて平気なものなのでしょう、