なずらひにおぼさるる なずらひに思さるる なずらふ なずらう 01-128
桐壺更衣と比較するに足る。「思さる」は帝自身の自敬表現。「る」は自発。
慰むやとさるべき人びと参らせたまへど なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに 先帝の四の宮の 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ と奏しけるに まことにやと、御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
慰めになろうかと、夫人にふさわしい方々をお召しになるが、比べてみるお気持ちになる人さえ全く見つからぬ世の中であると、疎ましいとばかり万事をお考えになっておいででしたが、先帝に四の宮は、美貌にすぐれ、世評も高く、母の后がこよなく大切にお育てになお方ですがそれを、帝に仕える典侍は先帝の御代からの女房で、四の宮のもとへも親しく通い馴れていたので、幼い時分よりお見かけし、昨今も物越しながらしかとお見受けして来てところなので、お亡くなりになった御息所のご容貌に似ていらっしゃる方を、三代の宮仕えを過ごしてまいりながらいっこうにお見受けしたこともございませんが、后の宮のお姫さまこそまことに生き写しのお姿にご成長なさいました。類なきお顔立ちのお方でと奏上したところ、本当だろうかと御心に留まり人を立て懇ろに入内をお勧め申し上げた。