ものおもうたまへしらぬ ものおもうたまえしらぬ もの思うたまへ知らぬ 01-057
「もの」は世情。自分の守備範囲にない点で「もの」と言い表されている。世情に疎い身ながら。「たまへ」は自分の動作「思ひ知らぬ」についているので謙譲語。謙譲語の「たまふ」は、会話文や手紙文で用いられ、地の文では用いない。そのため、丁寧語と考える説もある。謙譲語の「給ふ」はこのように複合動詞につく場合は間に入る。「思う」はウ音便。「思うたまへ知らぬ」=「思ひたまへ知らぬ」
参りては いとど心苦しう 心肝も尽くるやうになむと 典侍の奏したまひしを もの思うたまへ知らぬ心地にも げにこそいと忍びがたうはべりけれとて ややためらひて 仰せ言伝へきこゆ
お訪ねしましてはますます心が痛み魂も消え入りそうでと、以前典侍が奏上なさっていましたが、情理にうといふつつか者にも、全くもって忍びがたかろうと存じますと言い、しばし心を静めてから、命婦は帝の仰せごとをお伝え申し上げる。