いとかくおもひたまへましかば いとかく思ひたまへましかば 01-031
死を前にした最後の願いである。「これまで周囲の人々の思惑に気兼ねしながら過ごして来たが、もっと自己の心に従順に帝との愛に徹すればよかったと思う後悔の念」、「こうなることがわかっていれば、なまじ帝の寵愛をいかただかなければよかった」、「かく=生きたい。生きる希望を満たされるならうれしかろうに」、「こんなふうになると存じていましたならばおそばに参るのではございませんでした」と、諸注は百花繚乱である。歌だから、相手の気持ちを受け止めたうえで、自分の気持ちを伝えるのが原則。諸注の説明は全く、帝の気持ちを取り入れていない。その点のみで判断しても歌の解釈としていただけない。
歌の心さえつかめば、ここは何でもない。後れ先立たじと約束しました通り、わたしだって帝の側を離れたくありませんというのが歌の気持ちであった。「ましかば」はかなわない願望(反実仮想)。かなわぬとは知りつつ、わたしだって一緒にいたいと心から願っております、ということ。
限りとて 別るる道の悲しきに いかまほしきは命なりけり いとかく思ひたまへましかばと
生不生は運命が決するもの、別れる道に来た今こうもわたしは悲しいのに、死出の旅を目指すのはこのはかない命なのです。お約束通りいつまでも一緒にいたいと心からそう願うことができましたならと。