しのびて 忍びて しのぶ 忍ぶ 01-026
どの注もこっそりとと訳すが、輦車の宣旨まで出て行列をつくって出てゆくのに、こっそりとは無理な話である。ここの「忍ぶ」は一人息子を宮中に置き去りにし、長く過ごした帝とも別れ、死を覚悟して出て行くことに対して、涙をのんで、耐え忍んでの意味。そうした気持ちを語り手が同情しているから強調の「ぞ」が使われているのだ。なお、今、光の君を置いて出ようとしているのは桐壺の局からである。宮中から出るのはまだ先の話。この後、「御息所(御子の母)」から「女」に戻り、歌を詠み別れの場面を演じる、いわば濡れ場が別れに必要であり、その場面に子供は適さない。
かかる折にも あるまじき恥もこそと心づかひして 御子をば留めたてまつりて 忍びてぞ出でたまふ
そうした折りにも東宮権に障るような不面目が起きてはと案じて、御子を帝のもとにお留め申して、涙をのんで局(つぼね)を後になさるのです。