はかなげ はかなげに はかなげなり 02-110
「あらし吹きそふ」は、つらさが増すことの和歌的表現としか、この時の頭中将は理解しようがない。頭中将の本妻が怒って恨みごとを言ってきたことの比喩とわかるのは後のこと。この点を指して「はかなげ」とした。「はかなげ」とは、はっきりと内容がつかめないことをいう。
うち払ふ袖も露けき常夏に あらし吹きそふ秋も来にけり とはかなげに言ひなして まめまめしく恨みたるさまも見えず 涙をもらし落としても いと恥づかしくつつましげに紛らはし隠して つらきをも思ひ知りけりと見えむは わりなく苦しきものと思ひたりしかば 心やすくて またとだえ置きはべりしほどに 跡もなくこそかき消ちて失せにしか
床の塵を払い人待ちしてさえ訪れなく袖も涙で濡れています、伴寝する喜びを知った常夏の花なのに、本妻からは脅され激しい嵐まで吹き加わって、いよいよ秋が到来し、あなたが飽きて去って行く季節ですね。とはかなげな調子で言いなし、本気で恨んでいる様子も見受けられず、つい涙をこぼしてもたいそう気まり悪げにつつましく包み隠してしまうし、辛い思いをしているように見られてはやり切れないほど苦しいと考えているようなので、気を許してまたぞろ足が遠のいてしまいましたそのうちに、跡形なく姿をくらませてしまったのです。