これひとつやはきみがうきふし これひとつやは君がうきふし 02-097
諸注は「これひとつ」は「指食い」と同時に嫉妬心を指すと考え、嫉妬心だけでなく女は欠点が一つですまないと考えているが、そうではない。「この女のあるやう/02-097」で始まる個所は、嫉妬心以外の欠点はそれなりにうまく繕う女という設定であった。「これひとつ」は指食いのみを受け、「おまえの嫉妬心で悩ませられたのは、指を噛まれた今回だけではないのだ」との意味である。何度も嫉妬心で嫌な思いしたから別れを切り出すのだ。むろん別れはポーズである。嫉妬心を和らげることが目的なのだから、嫉妬心以外を非難する意味はない。嫉妬心だけで十分手を焼いていたのだから、他にも欠点が多いのであれば、とっくに見切りをつけていることだろう。なおまた、手を折って逢瀬を重ねてきた過去を振り返るのであり、そこで問題にしているのは数、すなわち今回一回切りの問題なのかそうでなく何度もなのかが焦点。欠点は嫉妬ひとつだか、これに難度も悩まされてきたことを問題にしているのだ。
手を折りてあひ見しことを数ふれば これひとつやは 君が憂きふし えうらみじなど言ひはべれば
指を折り二人で過ごした思い出を数えてみると、この一回切りだったろうか、あなたのことでつらい目を見たのは、別れることになってもよもや恨んだりはできまいね」など言ってやりましたところ、