こころをさめず 心をさめず こころおさめず 心おさめず 02-095
がまんならない。「とかく紛れはべりしを…自然に心をさめらるるやうになむはべりし」と対をなす表現。容貌がよくない点で浮気に走ったが、地位の低い自分を見捨てずに愛情をそそいでくれることから、浮気心はおさまったとするのが前文/02-096。女の涙ぐましい努力にほだされ、女の心持ちをもまんざらではないと愛情が芽生えてきた。しかし、従順ながらも女の嫉妬心だけはどうにも我慢ができなかった。これを何とかしようというのが、これ以降の話。「心をさめず」の主体は夫である左馬頭。
この女のあるやう もとより 思ひいたらざりけることにも いかでこの人のためにはと なき手を出だし 後れたる筋の心をも なほ口惜しくは見えじと思ひはげみつつ とにかくにつけて ものまめやかに後見 つゆにても心に違ふことはなくもがなと思へりしほどに 進める方と思ひしかど とかくになびきてなよびゆき 醜き容貌をも この人に見や疎まれむと わりなく思ひつくろひ 疎き人に見えば 面伏せにや思はむと 憚り恥ぢて みさをにもてつけて見馴るるままに 心もけしうはあらずはべりしかど ただこの憎き方一つなむ 心をさめずはべりし
この女のやり方は、もともと、考え至らなかったことでも、どうかしてこの人のためにはと手を尽くすし、人に劣ることでも肝心な点だけは何とかがっかりさせぬよう心して励んだりと、なにかにつけ誠実そのものといった世話焼きをし、いささかも夫の心に違うことがないようにと思っている様子からすると勝ち気な女だと思っておりましたが、何かとこちらの意のままになびく様子であったし、醜い容貌にしてもこの人に見られたら疎まれてしまうのではないかとひどく恐れて化粧をし、醜さに鈍感な女だと人に思われては夫の面目をつぶすのではないかと一歩さがって遠慮するなど、妻の分を堅く守り努める様子を慣れ親しんでいくうちに愛情も相応にわいて来もしましたが、ただこのにっくきあの一点だけは我慢がなりませんでした。