こころをさめらるる 心をさめらるる 心納めらるる 心納める 02-094
文章構造として「心をさめらるる」が受けるのは「とかく紛れはべりしを」である。浮気心を抑えるだけの自制心が働くようになった。「おいらかならましかばと思ひつつ」を受けることができそうだが、そう解釈すると「とかく紛れはべりしを」が行き先を失うので、文章構造上この解釈は成り立たない。浮気心は治められたが、嫉妬心がやわらいでほしいという願望は治められたわけではない。
よるべとは思ひながら さうざうしくて とかく紛れはべりしを もの怨じをいたくしはべりしかば 心づきなく いとかからでおいらかならましかばと思ひつつ あまりいと許しなく疑ひはべりしもうるさくて かく数ならぬ身を見も放たで などかくしも思ふらむと 心苦しき折々もはべりて 自然に心をさめらるるやうになむはべりし
頼みの女とは思いながら物足りなくて、とかくほかのおなごで気を紛らせておりましたところ、何かにつけ悋気をひどくいたすものですから、情も移らずまったくそんな風でなくおおらかでいてくれたらと願いつつも、あまりに容赦のない疑りを受けるのも煩わしくて、こんなつまらぬ身に愛想もつかさずこうまで思い入れをするものだと、気の毒になる折々もございまして、自然と浮気心を治められるようになりました。