しのぶのみだれ 忍ぶの乱れ 02-004

2021-05-18

『伊勢物語』初段(伊勢物語全講 初冠参照)の「春日野の若紫のすりごろもしのぶの乱れ限り知られず」という歌を下に敷く。「春日野で袖が擦りあうほど間近に出会ったあなた方姉妹のせいで、わたしの信夫摺りの着物は乱れに乱れてしまった、この心同様に」との歌意である。若人たちの恋であり、空蝉と軒端荻との二人と出会う前触れの意味がこもるかも知れない。『伊勢物語』初段のしめくくりは印象的で、「昔人はかくいちはやきみやびをなむしける」とあり、光る源氏の色恋を全面的に支持しているとも考えうる。とまれ、ここでの意味は、正妻の葵の上をほったらかしにして、心が乱れるような恋をよそでしているのではないかとの意味である。※「いちはやき」の「いち」は神威霊威をあらわし、それらがさっと恐ろしい力で働くことがいちはやしの原義であり、抗することが出来ない性衝動の激しさをいう。対する「みやび」はそれを歌などを通して洗練した形で表現すること。相容れない二つの力を同時に支配したのが昔人である。光源氏も二つの力に引き裂かれながらバランスをとる生涯を送ることになる。


忍ぶの乱れやと 疑ひきこゆることもありしかど さしもあだめき目馴れたるうちつけの好き好きしさなどは 好ましからぬ御本性にて まれには あながちに引き違へ心尽くしなることを 御心に思しとどむる癖なむあやにくにて さるまじき御振る舞ひもうち混じりける

人目を忍んで通う女がどこぞにおいでかと大臣家では疑い申し上げることもあったけれど、そのような実のない世間でいくらも目にする軽はずみな色事などはお好みにならないご気性であって、稀には、強いてご気性に反して心を磨り減らす恋を御心に思いつづけるご性癖があいにくおありで、あってはならぬお振る舞いもついうち混じるのだった。

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