かかるすきごとども かかる好きごとども 02-001
「かかる」を語り手の言葉とすれば、この帖の後半から語られる空蝉 軒端荻 夕顔との恋愛を指すという、諸注釈の説明通りであろう。しかし、軒端荻はともかく、空蝉は光源氏が生涯大切にする女性であり、夕顔は喪ってしまうが、娘の玉鬘はやはり長きにわたり愛育するのだから、「好きごとども」の一言でまとめるには違和感がある。
「かかる」を光源氏の心内語と考えるとどうなるか。「かかる」は漠然と光源氏が経験した色恋沙汰全般を指すことになる。そのうち空蝉 軒端荻 夕顔などを語り手は取り上げたことになる。
光る源氏 名のみことことしう 言ひ消たれたまふ咎多かなるに いとど かかる好きごとどもを 末の世にも聞き伝へて 軽びたる名をや流さむと 忍びたまひける隠ろへごとをさへ 語り伝へけむ 人のもの言ひさがなさよ
光源氏とはまあ、名ばかりごたいそうだが、とつい言いよどんでしまう不始末が多いとのことなのに、ますますもって、こんな色恋沙汰の数々を後の世にまで語り継がれて、軽はずみの名を流すことになってはと、お隠しになっておられた秘密までも、語り伝えようとした人の、なんと口さがないことか。