しのびては 忍びては 01-058
我慢して。娘を失った内裏に孫をやりたくはないだろうが、そこは意を曲げての意味。帝の手紙を読んだ後の母君の回想に「かしこき仰せ言をたびたび承りながら、みづからはえなむ思ひたまへたつまじき(かしこき仰せ言を度たび承りながら、自身では参内を思い立てそうもございません)/01-063」とあり、これまでにも度々帝から参内の要請があったが、母君は断りつづけてきた経緯がある。これも省略技法。こっそりではない。「かかる折にも、あるまじき恥もこそと心づかひして、御子をば留めたてまつりて、忍びてぞ出でたまふ(そうした折りにも、東宮権に障るような不面目が起きてはと案じて、御子を帝のもとにお留め申して、涙をのんで局(つぼね)を後になさるのです)/01-026」の「忍びて」も同じ用法。
しばしは夢かとのみたどられしを やうやう思ひ静まるにしも 覚むべき方なく堪へがたきは いかにすべきわざにかとも 問ひあはすべき人だになきを 忍びては参りたまひなむや
しばしは夢かとばかり願われてならなかったが、ようやく気持ちが静まるにつけても、夢のようには覚める方途もなく耐えがたきは、いかにすべき倣いか相談しようにも相手さえおらぬことよ、まげて参内願えぬものか。