よのためし 世のためし 世の例し 世の例 01-004
悪い行動の見本 規範として世に広まりかねないこと。要するに歴史に悪名をとどめることをおそれる意味。「楊貴妃の例/01-005」「人の朝廷(みかど)の例/01-105」と出てくるように、いったん規範として固定化してしまえば、後の世にも語り継がれてしまう。帚木の冒頭でも、「かかる好きごとどもを、末の世にも聞き伝へて、軽びたる名をや流さむと、忍びたまひける隠ろへごとをさへ(こんな色恋沙汰の数々を、後の世でも伝え聞き、浮名を流すことになるのかと、お隠しになっておられた秘密までも)/02-001」とあり、当時の貴族たちが、後世に悪名が残ることを極度に恐れていたことが知られる。それは後世に障るからであろう、王朝社会の基底に流れる感覚である。
朝夕の宮仕へにつけても 人の心をのみ動かし 恨みを負ふ積もりにやありけむ いと篤しくなりゆき もの心細げに里がちなるを いよいよあかずあはれなるものに思ほして 人のそしりをもえ憚らせたまはず 世のためしにもなりぬべき御もてなしなり
朝夕の宮仕えにつけても、女房たちの心を掻き乱し、恨みをこうむることが度重なったせいだろうか、具合はひどくなるばかりで、後見のない心細さに打ちひしがれながら里へ帰りがちになる姿に、帝はますます癒しようもなく愛しさをつのらせ、周囲がもらす陰口も気にとめるご様子なく、後の世までの語り種ともなりかねないご寵愛でした。