うきこと 憂きこと うし 憂し 02-109
つらいこと。
さる憂きことやあらむとも知らず 心には忘れずながら 消息などもせで久しくはべりしに むげに思ひしをれて心細かりければ 幼き者などもありしに思ひわづらひて 撫子の花を折りておこせたりし とて涙ぐみたり
そんなつらいことがあろうとも知らず、心では忘れずながら便りなんかもせず久しく沙汰なしにしておりましたところ、すっかり悩みしおれ心細い境遇であったので、幼い娘がいることなどもわずらいの種であり、そこで撫子の花を折って結び文を寄越してまいりました」と言いいながら頭中将は涙ぐんでいる。