よをそむき 世を背き よをそむく 世を背く 02-096
出家する。
腹立たしくなりて 憎げなることどもを言ひはげましはべるに 女もえをさめぬ筋にて 指ひとつを引き寄せて喰ひてはべりしを おどろおどろしくかこちて かかる疵さへつきぬれば いよいよ交じらひをすべきにもあらず 辱めたまふめる官位 いとどしく何につけてかは人めかむ 世を背きぬべき身なめりなど言ひ脅して さらば 今日こそは限りなめれと この指をかがめてまかでぬ
腹立たしくなって憎まれ口をさんざ言いつのりましたところ、女もどうして納まらないたちで私の指を一本引き寄せ食いつきましたので、大げさにいたがりこれを口実にして、「こんな傷までつけられては、いよいよ出仕するわけにもまいかぬ。よくもばかにしてくれた官位もますますもってどうあがけば人並みになれようか。世を捨てるよりない身だろうよ」など言い脅して、「では、今日こそはもう仕舞いだね」と、噛まれた指を痛そうに曲げたまま表へ出たものです。