いろにもいださせたまはずなりぬる 色にも出ださせたまはずなりぬる いろにもいださせたまわずなりぬる 色にも出ださせたまわずなりぬる いろにもいださせたまわずなりぬ 色にも出ださせたまわずなりぬ 01-108

2021-05-15

光の君の皇太子擁立をおくびにも出さなくなった。これは裏返せば、これまでにも、公言しないまでもそうしたニュアンスを周囲に漏らしていたことを意味する。これは物語の背景を決定づける重要箇所である。弘徽殿の女御や父の右大臣が気を揉んだことも無理はない。また誰のさしがねかは不明ながら、桐壺の早すぎる死も皇太子を競う中で起こった事件との解釈が行き過ぎではない証左ともなろう。周囲がその情報を得ていたからこそ、「さばかり思したれど」という指示語が生きてくるのだ。


明くる年の春 坊定まりたまふにも いと引き越さまほしう思せど 御後見すべき人もなく また世のうけひくまじきことなりければ なかなか危く思し憚りて 色にも出ださせたまはずなりぬるを さばかり思したれど 限りこそありけれと 世人も聞こえ女御も御心落ちゐたまひぬ

明くる年の春東宮がお決まりになる際にも、どうかして第一皇子を飛び越しこの宮を立てたいとお望みになるが、生涯の後見役にかなう人物もまだなくまた世間がうけがうはずもなかったので、これではかえって身が危ういと察知され人目を憚りおくびにも出さなくなってしまわれたところ、あれほど大事になさってはいても決まりには勝てぬのだと、世間も噂し弘徽殿の女御も安堵されるのでした。

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